⚡ LAGLESS PORTAL🔭 アメリカ最前線 ②2026-09-20 (日)バックナンバー
🔭 アメリカ最前線 ②

設計ソフト2.2兆円の7割を3社が握り、日本の国産は90年代に消えた。OpenAIが「チップをLLMに描かせた」今日は、その分岐点

きょうの結論

今日はAIがソフトウェアの中から出ていって、モノの設計図と、モノを動かす電線のほうへ向かった一日。どれも日本に資産はあるのに、担い手だけがいない領域だった。

TOPIC 1

熟練者の暗黙知の塊だった「設計」に、モデルが入り始めた

EDA(電子設計自動化)の世界市場 = 年 約2.2兆円($150億) Cadence / Synopsys / Siemens EDA の3社で7割超 その他 日本の国産EDAベンダーは、1990年代にほぼ姿を消した。 電子機器・自動車部品・産業機械の設計を国内に大量に抱えたまま、道具はほぼ100%輸入 そこへ、新しいレイヤーが生まれつつある 既存EDAを置き換えるのではなく、その「上流」を取る。OpenAIは自社推論チップ「Jalapeño」の設計工程に 自分たちのLLMを組み込んで、試行回数を圧縮した(IEEE Spectrum 報)。
回路の記述、配置配線の制約、どこを妥協してどこを守るか。教科書に書けない判断の積み重ねだった領域。
2.2兆円EDAの世界市場(年間)
7割超上位3社の世界シェア
5社以上YC直近2バッチの設計自動化系
TOPIC 2

日本では「道具が高い」と「教える人がいない」が同時に来ている

① 道具が高い 3大ベンダーのライセンス費が固定費の重荷 古いバージョンを使い続ける運用が常態化 ② 継承できない 電気・電子系の設計者は50代以上が高比率 基板設計を個人で担う人の引退が20年代後半に集中 熟練者の判断をモデルで置き換える、明確な行き先 しかも部品メーカーと実装工場が国内に残っていて、基板を起こして検証するサイクルを短く回せる。規制の壁もない。
この領域で参入を止めるものは技術難度だけ。「誰も止めない」というのは、他のテーマとの大きな違い。

Y Combinator には、基板設計を自動化する Diode Computers、AI搭載のハードウェア設計ソフト Dalus、ハードウェアエンジニア向けのAIネイティブIDE Artifact、産業制御システム向けEDAの Outerport などが並んでいます。資本側も同じ方向で、ベンチャースタジオが$100M(約150億円)を調達し、その全額をフィジカルAI(物理世界を扱うAI)に振り向けると宣言しました。

日本市場の規模は、国内のEDA・設計支援ツール市場に設計受託と部品表管理のSaaS置き換え分を加えて、おおむね1,200億円と見積もられています(記事側の推定)。

TOPIC 3

アメリカの答えは「ソフトを売らない」。管理会社そのものになった

同じ市場に、2つの入り方がある A:管理組合にSaaSを売る 意思決定者は理事長、任期は1年 予算は総会決議、ITリテラシーもばらばら → 売るコストが高すぎる B:自分が管理会社になる 会計・理事会運営・修繕見積もり・住民対応を AIで巻き取る(AIロールアップ) → 組合は「管理会社を替えた」だけ 米国の住宅所有者組合(HOA)は約37万、住民7,500万人超、管理関連の支出は年$1,000億規模。 裏側でAIが動いていることを、組合が知る必要すらない a16zも今週「既存プレイヤーがAIを取り込み始めた局面では、 ツールを売るよりオペレーションごと置き換えるほうが勝ち筋」と論じている。
同じバッチには、ホテル向けの「AI従業員」Riviera、商業保険の代理店機能そのものを持つ Harper も並ぶ。
AIロールアップ = 人手のかかる業務を持つ会社を買ったり自分で始めたりして、その中身をAIで置き換えて利益率を上げるやり方。ソフトを売るのではなく、業務そのものを引き受けます。
TOPIC 4

日本では、管理会社のほうが「受託を辞退」し始めている

日本の分譲マンション 約700万戸 分譲マンションのストック 13万超 管理組合の数 年1兆円 管理委託費の市場 現場で何が起きているか フロント担当者1人が、10〜15の組合を掛け持ち 総会資料の作成・議事録・長期修繕計画の更新・複数業者の見積比較・区分所有者からの問い合わせ対応を、ほぼ人力で。 管理員が確保できず、人手不足を理由にした「管理受託の辞退」が全国で進行中。 価格を叩き合う必要がない。受けてくれる会社を探している組合が、全国にいる 文章を作る・数字を並べる・問い合わせに答える。この3つは、いずれもAIで巻き取れる形そのもの。
狙うべきは、大手が採算に合わないと手放している戸数50戸未満・築30年以上の物件。

制度面にも追い風があります。2022年に始まったマンション管理計画認定制度と管理適正評価制度で、管理の状態が点数化・可視化される流れができました。区分所有法の改正議論で決議要件の緩和が進めば、管理会社の切り替えそのものが起きやすくなります。マンション管理業の登録は必要ですが、これは取得不可能なハードルではなく、むしろ後から来る競合を防ぐ壁になります。TAMはフロント・事務・見積業務相当としておよそ800億円。

TOPIC 5

地熱資源は世界3位。なのに発電量は10位圏外という不一致

日本の地熱:持っているものと、使えているもの 資源量 約2,347万kW(米国・インドネシアに次ぐ世界3位) 発電設備容量 60万kW (資源の2〜3%) 使えていない理由は2つだけ 有望地点の約8割が国立・国定公園の中 自然公園法の規制を受ける 温泉事業者との合意に10年単位 「温泉が枯れるのでは」は地域の死活問題 超臨界方式は深度3,000〜5,000mを狙う。既存の温泉帯水層と物理的に離れる つまり最大の反対理由に対して、技術で答えられる余地が出てくる。
Mazama Energy が $135M(約200億円)を調達。400℃超の超臨界領域に届かせ、1本の坑井あたりの出力を桁違いに上げる。

なぜ今なのかというと、AIのデータセンターが24時間止まらない電力を求めるからです。太陽光や風力はコストこそ下がりましたが出力が変動します。この不一致が、地熱の評価をここ数年で急激に押し上げました。同じ日、Twilio創業者の次の賭けが核融合であることも報じられています。

そして日本の面白いところは、地熱タービンの世界シェアの6割超を東芝・三菱重工・富士電機が持っていることです。「装置を売る側」としては世界のトップランナーでありながら、「開発して電気を売る側」のプレイヤーが極端に少ない。装置メーカーから資産保有型の発電事業者へ回る余地が、まるごと空いています。推定TAMは約2,500億円、参入難易度は今日のなかで最も高い★5つ。

TOPIC 6

今日の横断:規制の変更が、そのまま需要を作っている

規制や構造が、先に需要を作っている領域 建築確認の一次審査 4号特例の縮小で審査対象が急増 検査機関の処理能力が逼迫(Permitify) 医療機関の資金繰り レセプト請求は月1回、入金は約2か月後 請求・入金の高速化がそのまま刺さる 延長保証のインフラ化 家電量販店の自社プログラムに偏在 中小ECが使える標準商品がない LLMのコスト可視化 Woz は「コーディングエージェントのトークン5割減」 独立した2つのシグナルが同じ方向を指している=実需 スパム報告の強制連携 インドが発信者番号アプリと通信事業者の連携を義務化 日本は特殊詐欺700億円超なのに情報が分断されたまま 規制が先に動いた国の事例は、日本で制度設計を提案するときの強い材料になる かつてのクラウドFinOpsと同じ道を、いまLLMがたどり始めている。
人口減少下で都市を畳んでいく作業が待っている以上、行政まわりの需要は確実に増える。

今日いちばん「日本でやりたい」と思ったのは、やはり Assembly HOA です。この会社が賢いのは、ソフトウェアを売らないと決めたところだと思います。もう1社挙げるなら Diode Computers で、こちらは国内の基板設計受託会社と組んで「日本の図面文化に合った設計AI」を作る入り方があります。JEITAの部品表フォーマットや系列企業間の図面授受の慣習は、海外ツールがそのままでは使えない理由であり、同時に国内プレイヤーだけが超えられる参入障壁でもあります。

TAMおよび日本市場に関する見立ては、いずれも記事側の推定です。情報の正確性については個別にご確認ください。

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