🔭 アメリカ最前線 ②
11億ドルの新ファンドが向かった先は、ソフトではなく町工場。天気・テレビ・金属部品という3つの空席
きょうの結論
今日の話題は、AIの話でありながら、どれもソフトウェアの外側 の話でした。そして日本を見ると、共通する形が浮かびます。制度は先にできているのに、それを使う事業者が来ていない。 器はあるのに、担い手がいない。
TOPIC 1
天気予報がAPIになると、儲かるのは「予報会社」ではなくなります
上流:観測データ
気象衛星・IoTセンサー網
↑ 利益が移動する
まんなか:予報そのもの
誰でもAPIで叩ける
下流:予報を「お金の判断」に変える層
天候保険・電力の需給予測
農業のリスク回避・小売の需要予測
↑ 利益が移動する
これまでは、大気の方程式をスパコンで解くしかなかった。だから気象機関と少数の会社だけの領域だった。
機械学習モデルが数分の推論で同等以上の精度を出すようになり、まんなかが薄くなった。
米国では天候デリバティブの想定元本が年250億ドル規模。下流はすでに一つの産業。
まんなかが誰でも使えるようになると、利益は必ず上流と下流へ逃げていく。
11億ドル a16zが作った新ファンドの規模
2.16億台 視聴内容を送っているスマートTV
8兆円 国内の金属・機械部品の受託市場
パラメトリック保険 = 「◯◯市で48時間に200mm降ったら、査定なしで100万円」のように、条件を満たしたら自動でお金が出る保険。被害の調査をしないので、支払いがとても速い。
TOPIC 2
日本の抜け道:予報を「作る」には許可が要るが、「使って商品にする」のは許可の外
予報を自分で作って出す
気象業務法により、気象庁の許可が必要
許可事業者は数百者。20年以上、実質2社の寡占
他社の予報を仕入れて、判断に変える
保険商品の設計、電力の需給判断、農業のリスク回避
こちらは、その許可の外側にある
需要側の条件は揃った。新電力は約700社まで増えたあと、200社以上が撤退・倒産した。
直接の原因の多くが「需要と気温の読み違い」。これは気象AIが解くべき問題そのもの。
推定市場 900億円(既存の気象情報 500億円 + 天候保険・デリバティブの新規 400億円)
自分では作らない。他社のものを使う。この一点で、参入障壁の性質が変わる。
2026年度からの容量市場・需給調整市場の本格運用で、予測精度がそのまま収益になる市場設計 が制度として完成しつつあります。それなのに、専業の引受・商品設計プレイヤーがいません。
TOPIC 3
テレビは家電ではなく、広告端末になっていました
テレビが
画面を常時識別
送信
メーカーの
サーバー
流通
広告のターゲティング
国内で年1,500億円規模
ここを測る第三者が、日本に一社もいない
2023年のcookie規制は電気通信事業者が対象で、テレビに組み込まれた仕組みは事実上その外側。
「修理する権利」の法律も日本にはない。家電の修理・保守市場は約4,000億円あるのに、担い手が不在。
売った後の端末は、企業のものか、買った人のものか。米欧ではそこが規制と告発の主戦場になっている。
追い風が2つあります。ひとつは、EUの規則に対応するために日本メーカーがEU向けに修理情報と部品供給体制を整えざるを得なくなった こと。整えた情報は国内でも使えるはずなのに、使う受け皿がありません。もうひとつは、物価上昇で「買い替えより修理」へ消費者が動き始めていることです。
ACR = テレビが「いま画面に何が映っているか」を自動で見分ける仕組み。番組でもゲームでも外部入力でも識別して、メーカーに送る。テレビが赤字覚悟の価格で売られ、広告で回収されている理由がこれ。
推定市場 1,100億円(家電修理・延長保証の作り直し 700億円 + テレビのデータ監査 400億円)。規制が来る前に、測る仕組みを押さえた側が勝つ形です。
TOPIC 4
売っているものが、ソフトから「部品そのもの」に変わっています
これまでの型
ソフトを作る会社
売る
町工場
→ 部品は工場が売る
いま出てきた型
ソフトで原価と納期を作り替えたうえで
自分が部品を売る
ソフトは競争優位の源で、商品ではない
商品は、削り出された金属部品
Forge Automation・Vendra・Axal——どれも「製造業向けSaaS」ではない。
AIで原価を下げられる時代には、この形がいちばん利益率が高い、という判断。
a16zが本日発表した新ファンドの名前は「The Machine Age Fund(機械時代のファンド)」。11億ドル(約1,650億円)を、ソフトウェア単体ではなく製造・ロボティクス・物理インフラに張ります。同じ日に配信された論考のタイトルは「既存企業がやって来る」。ソフトウェアだけでは事業を守れない 、という論旨でした。
TOPIC 5
日本には「承継されない加工能力」という、在庫の見えている市場があります
いま起きていること
技術はある
+
継ぐ人がいない
→
廃業 > 新規開業 が10年以上
これまでの膠着
買収して回すには人手が要る → 人手が要るから買えない → だから誰も買わない
解き方は、順番を変えること
① 見積もりを自動化
熟練者が半日かける工程
② 工程設計を自動化
③ 稼働を見える化
④ 複数工場を
1つの生産能力として売る
推定市場 2,000億円(受託市場8兆円のうち、ソフト起点の統合サプライヤーが5年で取り得る2.5%)
米国が「American Manufacturing」を旗印にするのなら、日本には「承継されない加工能力の再統合」という、もっと切実で在庫が見えている市場がある。
事業所の大半は従業員20人未満、経営者の平均年齢は60歳超。事業承継・引継ぎ支援センターへの相談は年2万件を超え、引き受け手のいない優良工場が実際に市場に出ています 。補助金も設備投資とM&Aの両方に使える形で続いています。
今日の3つのなかで、いちばん重いテーマです。資本もオペレーションも重く、ソフト単体の何倍も労力がかかります。ただし一度回り始めれば、模倣が極めて難しい事業になります。必要なのは、ソフトウェアの腕前と、工場を買う覚悟です。