日本で長く「遅れている」と言われてきた場所——電話でしか予約できない店、苦情が来るまで動けない行政、鑑定士の目に頼る二次流通——は、AIエージェントの時代には「壁を越える部品が売れる場所」に変わります。
作ったのはYC Winter 2026バッチのVOYGR。創業者2人はもともとGoogleマップと検索のエンジニアで、地図の情報がすぐ古くなること、最後は電話で確かめるしかないことを誰より知っている人たちです。
「電話は最後のAPIだ」というのが彼らの言葉です。AIはウェブを読み、フォームを埋め、メールを書けるようになりました。でもネット予約に載っていない小さな店や病院に「今日は開いていますか」と確かめる段で、急に手が止まります。
注意点もあります。売り込みの電話ではないので特定商取引法の電話勧誘規制からは外れると考えられますが、「AIからの電話です」と名乗るか、録音をどう扱うか、同じ店に何度もかけて迷惑にならないか。ルールは最初に自分で決めておく必要があります。
日本の店は、知らない番号からの機械的な電話に敏感です。敬語の自然さと「迷惑ではない」と思ってもらえる運用のほうが、技術より大きな参入障壁になります。
YC Fall 2026バッチのParticularityは、米国の消費者保護当局向けにAIの「調査官」を作っています。公開中のウェブサイトを消費者と同じように操作し、「広告の価格と決済画面の価格は同じか」「ネットで解約できるか」を実際に確かめ、操作ひとつひとつにタイムスタンプとハッシュ値を付けて記録します。
日本で事業にするなら、むしろ事業者の側に大きな市場があります。2022年6月の改正特定商取引法で、通販の最終確認画面に定期購入の条件を示すことが義務になりました。自社や取引先のLP・決済画面・SNS投稿を行政と同じ目線で先に点検できるサービスは、一種の保険になります。
日本のリユース市場は2024年で約3兆5,000億円、15年連続で伸びています。一方で2025年に税関が止めた知的財産侵害物品の輸入は31,760件で、3年連続3万件超。そのうち82.8%は中国からでした。
二次流通が大きい国ほど「本物か」「前の持ち主は誰か」を確かめるコストが積み上がります。国内でもNFCタグはありますが、多くは「タグを貼る」まで。オーナー証明・所有権の引き継ぎ・ファン向け特典までをひとつにまとめたサービスは、まだ少ないと感じます。工芸品、刀剣、高級な日本酒、サイン入りユニフォームなど、少量で単価の高い商品から始めるのがよさそうです。
ほかにも、中小の法律事務所の受付から入金までを回すPraxis(「事務所の時間の62%は請求できない事務作業」)、企業法務向けのNeomatterがYCから2社同時に出ています。日本の弁護士は約4.5万人で、多くが小さな事務所。契約書レビューのAIは普及しましたが、「相談の受付から着手金の請求まで」はまだ電話とメールと紙が中心です。
鉱山の安全報告を支えるKorrAIの「TRAIL」も面白い1社でした。2026年の受注は170万ドルで、その大半が継続収入。しかも全部「ソフトウェアの予算」ではなく「コンサルティングの予算」から取っています。日本にもダム、ため池、盛土、道路ののり面と、技術者が署名するインフラは膨大にあります。
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