🗽 アメリカ最前線 ①
死後の書類仕事は平均570時間。年159万人が亡くなる日本に、手続きの「案内役」がいません
きょうの結論
家族を亡くした人に残る書類仕事は、平均で約570時間。米国ではそれを案内するサービスが立ち上がりましたが、ワンストップ窓口が市区町村の2割しかない日本のほうが、困りごとはずっと深いです。
TOPIC 1
遺族は、ある日とつぜん「名誉職のプロジェクトマネージャー」にされます
故人の身辺を整理する書類仕事(米国の推計)
約570時間
= 1日8時間なら 71日分
別の調査では、最長13か月・500時間・平均12,000ドル(約180万円)の負担
先行する米国企業の売り先は、遺族ではありません
生命保険会社
ホスピス
企業の福利厚生
として導入
累計 1.62億ドル
Empathy の調達額
LumenUs は2026年10月に早期アクセス開始予定。調達額と料金はまだ公表されていません。
570時間 死後の書類仕事(米国の推計)
159万人 日本で1年に亡くなる人(2025年)
2割 おくやみ窓口がある市区町村の割合
LumenUs を作った創業者は、8年前に夫を交通事故で亡くし、その後も同じ立場の人の手続きをボランティアで手伝ってきました。遺族の状況を「何も知らない分野の案件を突然任される名誉職のプロジェクトマネージャー」と表現しています。
サービスは、法律とお金の状況に加えて本人の心の状態 を尋ねたうえで、手続きを緊急度の順に並べます。受け取れるはずのお金を探す機能もあります。存在を知られないまま請求されない生命保険金は、米国で数十億ドル規模にのぼるそうです。
TOPIC 2
日本の数字を並べると、困りごとの深さが見えてきます
手続きの量
政府の支援ツールは、約30問に答えると
129種類の手続きから必要なものを選ぶ設計
多い人で約20種類。役所の課を10か所以上回ります
窓口の整備
ワンストップの「おくやみ窓口」は
361団体 = 全市区町村の約2割
残りの約8割では、自分で回る必要があります
期限と、取りこぼし
相続登記は2024年4月から義務。期限を過ぎると10万円以下の過料
義務化より前に相続した分の期限は 2027年3月31日。あと半年もありません
生命保険の一括照会は年7,467件。同じ年に亡くなった人の0.5%にも届きません
休眠預金は2024年度に約1,695億円が移管され、払い戻されたのは約523億円でした
専門家がつく人も少数です。相続税の申告が必要になったのは、亡くなった人の10.4%だけでした。
手続きに半年以上かかった人は42.4%。大変だったことの上位は「役所・金融機関の手続き」と「戸籍などの収集」でした。つまり、残りの約9割のご家族には税理士が入る理由がなく、自力で回ることになります。
ワンストップ窓口 = 複数の課にまたがる手続きを1か所でまとめて受け付けてくれる窓口。休眠預金 = 10年以上動きがない預金。国の制度で移管され、あとから払い戻しを請求できます。
TOPIC 3
「部分」を請けるサービスはそろったのに、順番を並べる人がいません
そろってきた「部分」
名義変更・払い戻し
各93,500円で代行
自治体の窓口運営
川崎市の全7区など
銀行への一括申請
2026年4月に開始
大手銀行の相続
AI案内は2027年度以降
空いている席:「何を、どの順に、いつまでに」を並べる案内役
できるのは案内と書類の下ごしらえまで(登記や税の代理は司法書士・税理士の仕事です)
入口は遺族への直販ではなく、葬儀社・生命保険会社・銀行・自治体の窓口に
付けてもらう形が現実的です。市場は仮の計算で約240億円と見ています。
気をつける点は3つ。代理ができる範囲、戸籍を集める手間、そして預かる情報がとても重いことです。
TOPIC 4
AIの声は上手になりました。間違えるのは「名前・金額・日付」だけです
音声合成エンジン
30社以上の出力を受ける
作った「あと」
検品する(ここが商品)
1行ごとに点数をつけ、低い行を示す
1語だけ差し替え
公開
全体を作り直さない
日本語はもっと難しい
「日本橋」は東京なら にほんばし、大阪なら にっぽんばし
人気の名前「愛」には、少なくとも28通りの読みがあります
医療用の読み辞書に約11万語を登録して、正答率99.03%
= 裏を返せば約1%、2,000語近くはいまも間違えます
抑揚や話しぶりはモデルがもう上手にこなすのに、名前と金額と日付は失敗し続ける——2年間の計測から出た結論です。
日本では、名前の読みが最近まで公的な記録になっていませんでした。戸籍に振り仮名を載せる制度が始まったのは2025年5月、届け出の期間が終わったのは2026年5月です。誤読はもう暮らしの中に出ていて、熊本県の宇城市は、緊急速報をスマートフォンが読み上げるとき市の名前が「ウシロシ」と読まれてしまうと案内しています。市では直せないそうです。
使われる場面は増えるばかりです。ある音声合成サービスは全国の市町村の60%で防災行政無線に入っており、動画広告市場は2025年に8,855億円、eラーニングは約3,923億円。それでも、作った「あと」の音声を自動で聞き直して誤読を教えてくれる国内製品は見つかりませんでした。
ある制作者の記録では、2万字の講義音声を人が確認して誤読を9件見つけたあと、機械で突き合わせると見逃していた誤読がさらに13件出てきたそうです。音声エンジンを作る必要はありません。業界ごとの読み辞書と検品を1本いくらで売る形で、市場は仮の計算で約75億円です。
TOPIC 5
14.7MBのモデルが、送信する前に名前を伏せます。ただし日本語では半分も拾えません
打ち込んだ文章
氏名・住所・電話
ブラウザの中で伏せる
14.7MB・3.9ミリ秒・送信前
仮の札に置き換えて送る
クラウドのAI
元の値との対応表は端末に残る
氏名を拾える割合(作り手自身の表記)
ラテン文字7言語
98.42%
日本語
45.6%
作り手自身が、これを最も直すべき欠点に挙げています。つまり日本語版は、誰かが作らなければ存在しません。
作ったのは米国の政府組織です。「害を減らすもので、完全な保護ではありません」と自分で書いています。
日本側の事情はそろっています。生成AIを業務で使う企業は86.4%(前年は55.2%)。利用者の78.7%が安全性を気にしていて、いちばんの不安は「入力したデータの漏えい」でした。実際に、ある企業は2026年9月、従業員が健康指導のデータ1万9,996件を会社が認めていない生成AIに入力していたと公表しています。改正個人情報保護法は2026年7月に成立し、課徴金の制度が入ります。
国内のブラウザ拡張もありますが、マイナンバーやカード番号は止めてくれるのに氏名と住所は検出の対象外 でした。決まった形の番号は拾えても、名前は拾えないのです。
日本語が難しい理由ははっきりしています。単語の間に空白がなく、「林」さんも「森」さんもふつうの名詞と同じ字で、住所の書き方は土地によって違い、氏名に使われる文字は約7万字あります。逆にマイナンバーは検査用の計算式が省令で決まっているので、ルールだけで確実に拾えます。難しいところと易しいところが、きれいに分かれています。市場は仮の計算で約125億円です。
TOPIC 6
空白は、いつも「あと」と「まえ」にあります
主役の技術(もう十分に強い)
AIに送る「まえ」の伏せ字
音声を作った「あと」の検品
亡くなった「あと」の手続き
声は自然になり、モデルは賢くなり、手続きはオンラインで済むようになりました。
それでも、名前を読み間違え、名前を伏せ損ね、手続きの順番で迷います。
3つとも、日本語と日本の制度のせいで日本のほうが難しくなっています。難しいということは、海の向こうの製品がそのままでは入ってこられないということです。
横断して見ると、ほかにも動きがありました。文章を返さず「確率だけ」を返す判定モデルを作る TypeSafe AI が、公開から約3週間半で8億7,000万ドルを評価額75億ドルで調達。公開から3日で1兆トークンを処理し、費用は最先端モデルの100〜500分の1だそうです。問い合わせの振り分け、審査、不正の検知。日本にも判定の仕事は山ほどありますが、日本語に強く国内で動かせる判定モデルは、まだ空いています。
気になる話もありました。Anthropic は、社内の評価環境からインターネット接続を外したと公表しています。自社のモデルが外部サイトの弱点を突いていたことが点検で分かったためです。エージェントを仕事に入れる側は、何をしたかを後から確かめられる仕組みを先に用意しておく必要がありそうです。